世界最高峰の自転車ロードレース、ツール・ド・フランス。その開催期間について「約3週間」というイメージを持つ人は多いでしょう。しかし、具体的に何日間で、どのような構成になっているのでしょうか。
私がこの疑問を深掘りしたところ、この「期間」には、選手の限界、興行的な都合、そして100年を超える歴史の変遷が凝縮されていることが分かりました。この記事では、現代のツール・ド・フランスの開催期間の構造から、1903年の第1回大会の姿、未来の大会スケジュールまで、その全貌を解説します。
現代のツールドフランス|「約3週間」の構造
現代のツール・ド・フランスの開催期間は、厳格なルールに基づいて設計されています。それは単なる日数ではなく、競技の公平性と興行の最大化を両立させるための答えです。
23日間=21ステージ+2休息日
結論から言えば、現代のツール・ド・フランスの開催期間は23日間です。この23日間の内訳は、実走競技日(ステージ)が21日間、そして公式休息日が2日間と定められています。
選手たちは、土曜日に開幕し、4回の日曜日を経て、3週間後の日曜日に閉幕するというスケジュールでフランス全土を駆け巡ります。総走行距離は年によって変動しますが、概ね3,300kmから3,500kmに達します。この過酷なレースを23日間で完遂するのです。
休息日の重要な役割|移動と回復
開催期間に含まれる2日間の休息日は、単なる「休み」ではありません。選手にとっては、激しい戦いで酷使した肉体を回復させ、次の戦いに備えるための重要な時間です。
とはいえ、完全に休むわけではありません。筋肉が固まるのを防ぐため、1〜2時間程度の軽いトレーニング(リカバリーライド)を行うのが一般的です。
運営側にとっては、この休息日は「大移動日」という側面を持ちます。選手、チームスタッフ、メディア関係者など数千人規模のキャラバンが、次のステージ開催地へ数百キロメートル移動するための、兵站上(ロジスティクス上)不可欠な日なのです。
1903年の衝撃|黎明期の開催期間
ツール・ド・フランスの期間が、常に23日間・21ステージだったわけではありません。120年以上の歴史を遡ると、現代とは全く異なる姿が見えてきます。
わずか6ステージだった第1回大会
1903年に開催された記念すべき第1回大会。この大会は、新聞『ロト』の販売部数拡大のために企画されました。驚くべきことに、この時の開催期間は19日間でしたが、ステージ数はわずか6ステージでした。
現代のレースと決定的に違うのは、1ステージあたりの距離です。平均400kmを超える「怪物的な」長さであり、選手たちは夜通し走り続ける必要がありました。そのため、一つのステージが終わると、次のステージまでに数日間の完全な休息日が設けられていたのです。
夜間走行禁止とステージ数の増加
レースが回を重ねるにつれ、競技は「サバイバル」から「スピード競技」へと姿を変えていきます。特に、監視の目が行き届かず不正の温床となりやすかった夜間走行は禁止されました。
それに伴い、1ステージの距離は短縮され、その代わりにステージ数が増加しました。フランス全土を巡る「ラ・グランド・ブークル(大ループ)」としての性格が強まり、毎日レースが行われる現代のスタイルが確立されていったのです。
近年の開催スケジュールと未来
ツール・ド・フランスの基本フォーマットは安定していますが、その内容は年々進化しています。ここでは、2025年と2026年の大会、そして急速に発展する女子レースについて見ていきましょう。
2025年大会|パリへの帰還
2025年の第112回大会は、7月5日(土)に開幕し、7月27日(日)に閉幕する23日間で開催されます。2024年大会はパリオリンピックの影響で最終地点がニースでしたが、2025年は2年ぶりにパリのシャンゼリゼ通りへフィナーレが戻ってきます。
- 開催期間|2025年7月5日 〜 7月27日
- 総期間|23日間
- ステージ数|21ステージ
2026年大会|バルセロナ開幕と異例のTTT
2026年の第113回大会は、7月4日(土)から7月26日(日)までの23日間で開催されます。この年の大きな特徴は、スペインのバルセロナで開幕(グラン・デパール)することです。
さらに注目すべきは、第1ステージがチームタイムトライアル(TTT)である点です。開幕ステージがTTTで行われるのは、1971年以来、実に55年ぶりとなります。初日から各チームの総合力が試され、レース展開に大きな影響を与えることは間違いありません。
- 開催期間|2026年7月4日 〜 7月26日
- 総期間|23日間
- ステージ数|21ステージ
拡大する女子レース「ツール・ド・フランス・ファム」
ツール・ド・フランスの「期間」を語る上で、女子レース「ツール・ド・フランス・ファム・アヴェック・ズイフト」の存在も欠かせません。2022年の復活以来、大きな成功を収めています。
2025年大会では、この女子レースが歴史的な転換点を迎えます。従来の8日間8ステージから、9日間9ステージへと開催期間が1日延長されることが決定しました。
男子レースの閉幕と重なるように開幕することで、7月上旬の男子開幕から8月上旬の女子閉幕まで、約1ヶ月間にわたり自転車レースの興奮が続くことになります。
まとめ
ツール・ド・フランスの開催期間は23日間(実走21日、休息日2日)です。この「約3週間」という枠組みは、1903年の黎明期から続く試行錯誤の末にたどり着いた、選手の生理的限界と興行的な要請が交差する絶妙なバランスの上に成り立っています。
2025年、2026年と未来の大会もこの基本骨格は維持されますが、開幕地の国外移転や女子レースの拡大など、その内容は常に進化を続けています。この厳格な期間の中で繰り広げられる人間ドラマこそが、私たちがツール・ド・フランスに魅了され続ける理由です。

