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草壁シトヒ
くさかべしとひ
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『ツール・ド・フランス』最悪の事故から数年、犯人のその後は?

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世界最大の自転車レース、ツール・ド・フランス。2021年大会で起きた、一人の観客の行動による大規模落車事故は、世界中に衝撃を与えました。あの「Opi-Omi(オピ・オミ)」事件です。

私がこの事件を振り返るとき、単なる事故ではなく、スポーツ観戦のあり方そのものに警鐘を鳴らした歴史的な出来事だったと感じます。あの大惨事を引き起こした犯人はどうなったのか、そしてツール・ド・フランスはどのように変わったのか。事件の全貌と「その後」を詳しく解説します。

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ツール史に残る大惨事「Opi-Omi」事件とは

2021年6月26日、第1ステージの残り約45km地点で事件は起きました。沿道の一人の観客が引き起こしたこの事故は、プロトン(集団)の大部分を巻き込む、ツール・ド・フランスの歴史においても最悪の集団落車の一つとして記憶されています。

事故発生の瞬間|背を向けた観客の看板

黄色いレインコートを着た女性観客が、コースにはみ出し、テレビカメラに向かってダンボール製の看板を掲げました。看板にはドイツ語で「Allez Opi-Omi!(頑張って、おじいちゃん、おばあちゃん!)」と書かれていました。

決定的な過ちは、彼女が高速で接近するプロトンに背を向け、カメラしか見ていなかった点です。集団の先頭を走っていたトニー・マルティン選手は、突如現れた障害物を避けきれず、看板に激突し転倒しました。

プロトン崩壊|選手たちが負った深刻な被害

マルティン選手の転倒をきっかけに、後続の選手たちがドミノ倒しのように次々と折り重なりました。この事故で数十人の選手が負傷し、レース続行が難しくなる事態となりました。

特に被害が大きかった選手を以下にまとめます。

  • マルク・ソレル選手|両腕を骨折する重傷。
  • ヤシャ・ズッターリン選手|手首の負傷により即時リタイア。
  • イグナタス・コノヴァロヴァス選手|頭部外傷で一時意識を失う。

多くの有力選手がこの事故に巻き込まれ、初日にして総合優勝争いから脱落する選手も出るなど、レース全体に計り知れない影響を与えました。

事件の犯人「Opi-Omiの女性」の特定と判決

大惨事を引き起こした観客は、事故直後にその場から逃走しました。この行動が、世間のさらなる非難を集めることになります。

犯人の逃走と4日後の出頭

フランス警察は「過失傷害」などの容疑で捜査を開始し、目撃情報を広く呼びかけました。世界中のメディアがこの事件を報じ、SNS上では犯人に対する激しいバッシングが起こりました。

事件発生から4日後、当時31歳(報道による)のフランス人女性が警察に出頭しました。彼女は取り調べに対し、自身の行為が「愚かさ」によるものだったと認め、祖父母へのメッセージがこれほどの結果を招くとは想像していなかったと供述しました。

裁判所の判決|1200ユーロの罰金

2021年12月、ブレストの裁判所は判決を下しました。検察は執行猶予付きの禁錮刑を求刑していましたが、裁判所が命じたのは1200ユーロ(当時のレートで約15万円前後)の罰金でした。

私がこの判決を見たとき、予想よりも軽いと感じました。しかし、これには被告が自首したことや、すでに世界中から社会的制裁を受けていたことなどが考慮されたようです。

選手側が求めた「1ユーロ」の象徴的意味

この裁判で注目すべきは、原告側の対応の違いです。大会主催者のASO(アモリー・スポル・オルガニザシオン)は、事態の鎮静化を図るため、途中で告訴を取り下げました。

一方で、選手たちの組合であるCPA(プロサイクリスト協会)は、原告として残り続けました。CPAが求めた損害賠償額は、わずか「1ユーロ」でした。これは金銭的な補償が目的ではなく、「選手の職場(コース)の安全を脅かす行為は法的に許されない」という判例を確立することに強い意義があったからです。

繰り返される観客の妨害|自撮り棒という新たな脅威

「Opi-Omi」事件は世界中に観戦マナーの重要性を示したはずでした。しかし、私が近年のレースを見ていて感じるのは、残念ながら同様の事故が後を絶たないという現実です。特に「自撮り」による妨害行為が新たな脅威となっています。

2022年|ダニエル・オスの頚椎骨折

2022年大会の第5ステージ。石畳区間で、イタリアのダニエル・オス選手が、スマートフォンで撮影しようとコースに身を乗り出した観客と激突しました。

オス選手は落車し、検査の結果、頚椎(首の骨)を骨折していることが判明しました。彼はその状態でステージを完走しましたが、当然リタイアを余儀なくされました。観客のスマートフォンが、選手のキャリア、ひいては生命を脅かす凶器となった瞬間です。

2023年|ステフ・クラスとセップ・クスの受難

2023年大会でも観客による妨害が続発しました。第8ステージでは、ステフ・クラス選手がコースに1メートル以上踏み出した観客と接触しリタイア。クラス選手はSNSで「選手へのリスペクトがないなら家にいてくれ」と怒りを露わにしました。

さらに第15ステージでは、セップ・クス選手が、自撮りをしようとした観客の腕(あるいは自撮り棒)にハンドルを取られ転倒。これをきっかけに約20名を巻き込む大規模落車が発生しました。

なぜ事故は繰り返されるのか|観客意識の変化

なぜ警告や法的措置を経ても、事故は繰り返されるのでしょうか。私が考えるに、それは観客の意識が「レースを観戦する」ことから、「レースを背景に自分をアピールする」ことへシフトしているからです。

「Opi-Omi」事件も今回の自撮り事故も、観客は選手に背を向けています。選手にとって、自分たちを見ていない障害物を避けることは極めて困難です。この「自己愛的な観戦スタイル」こそが、現代のロードレースが抱える最大のリスクだと私は断言します。

未来へ向けた安全対策|SafeRプロジェクトと新ルール

度重なる事故を受け、主催者や国際自転車競技連合(UCI)も、ついに抜本的な安全対策に乗り出しました。選手の安全を守るため、レースのあり方そのものが変わり始めています。

独立機関「SafeR」の設立

UCI、主催者、チーム、選手組合が一体となり、レースの安全性を専門に扱う独立機関「SafeR(セーファー)」が設立されました。SafeRは、事故が起きやすい危険箇所のデータベース化や、観客を物理的に遮断する防護柵(バリア)の設置基準の厳格化などを進めています。

「イエローカード」制度の導入

2025年シーズンから、ロードレースにも「イエローカード」制度が本格導入されます。これは危険行為を行った選手だけでなく、チームカーの運転手や、レースに関わる全ての関係者を対象とします。

これにより、レース全体の規律を高め、観客を避けるための危険な運転などを抑制する効果が期待されます。

まとめ

2021年の「Opi-Omi」事件は、1200ユーロの罰金という判決以上に、ツール・ド・フランスの歴史における大きな転換点となりました。あの日以来、選手と観客の牧歌的な関係は終わりを告げ、より厳格な管理とルールの下でレースが行われる時代へと入りました。

私が強く思うのは、SafeRやイエローカードといった対策も重要ですが、最終的に選手の安全を守るのは、沿道に立つ一人ひとりの観客の意識だということです。コースは選手の「職場」です。自撮り棒を掲げる行為が、アスリートの人生を奪う凶器になり得ることを、私たちは決して忘れてはなりません。

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