私がアメリカンフットボールを見ていて、特に異彩を放っていると感じるチームが、グリーンベイ・パッカーズです。アメリカのプロスポーツリーグNFLには、巨大都市を本拠地とするチームがひしめいています。
その中で、人口わずか10万人の小さな街グリーンベイに本拠を置くパッカーズが、なぜリーグ屈指の強豪として君臨し続けているのでしょうか。その答えの鍵は、世界でも類を見ない「公有モデル」というチームの所有形態にあります。この記事では、小さな街がNFLを支配する、グリーンベイ・パッカーズの奇跡的な仕組みとその歴史を、初心者にも分かりやすく解説します。
グリーンベイ・パッカーズとは|NFL最小の町が生んだ伝説
グリーンベイ・パッカーズは、他のどのプロスポーツチームとも根本的に異なります。ウィスコンシン州の小さな街が、いかにして全米を代表するフットボールチームの本拠地となったのか、その背景には深い歴史があります。
チームの誕生と「パッカーズ」の由来
チームの創設は1919年に遡ります。創設者カーリー・ランボーが働いていた「インディアン・パッキング・カンパニー」が、ユニフォーム代として500ドルを支援しました。
このスポンサーシップが「パッカーズ(缶詰工)」という名前の由来です。この名前は、大富豪ではなく、地元の労働者階級の産業によってチームが支えられてきた証しです。
なぜ「タイトルタウン」と呼ばれるのか
グリーンベイが「タイトルタウン(優勝の街)」と呼ばれる理由は、その圧倒的な勝利の歴史にあります。NFLチャンピオンシップとスーパーボウルを合わせて、リーグ最多の優勝回数を誇ります。
特に、伝説的なコーチ、ヴィンス・ロンバルディが率いた時代には、圧倒的な強さで数々のタイトルを獲得しました。この栄光の歴史が、小さな街の誇りとなっています。
表1|パッカーズの主な優勝歴
| 年度 | チャンピオンシップ |
| 1929年 | NFLチャンピオン |
| 1930年 | NFLチャンピオン |
| 1931年 | NFLチャンピオン |
| 1936年 | NFLチャンピオンシップ |
| 1939年 | NFLチャンピオンシップ |
| 1944年 | NFLチャンピオンシップ |
| 1961年 | NFLチャンピオンシップ |
| 1962年 | NFLチャンピオンシップ |
| 1965年 | NFLチャンピオンシップ |
| 1966年 | 第1回スーパーボウル |
| 1967年 | 第2回スーパーボウル |
| 1996年 | 第31回スーパーボウル |
| 2010年 | 第45回スーパーボウル |
奇跡の「公有モデル」|市民がオーナーのチーム
パッカーズの最大の特徴は、その「所有形態」にあります。私がこの仕組みを知った時、非常に驚きました。他のNFLチームはすべて大富豪の個人オーナーが所有していますが、パッカーズだけは違います。
破産の危機から生まれた市民チーム
チームは創設初期、常に財政難に苦しんでいました。1921年には破産寸前に陥ります。
この危機を救ったのが、1923年の法人化です。チームは「グリーンベイ・フットボール・コーポレーション」という非営利の公有企業、つまり「市民チーム」へと生まれ変わりました。
株主の権利とは?|利益の出ない株式
パッカーズは、不定期に株式を発行して運営資金を集めます。現在、11万人以上の株主がいますが、この株式は通常の株式とは全く異なります。
株主の「権利」について、驚くべき事実を紹介します。
- 配当金(利益の分配)は一切支払われない
- 株式の転売は厳しく制限されている
- シーズンチケットの優遇措置もない
株主が得られるのは、株主総会への参加権と「チームのオーナーである」という誇りだけです。これは金融投資ではなく、チームへの後援の証しです。
公有モデルがチームを守る仕組み
この公有モデルは、チームにとって最強の防衛策となっています。なぜなら、特定の個人オーナーが存在しないため、誰もチームを売却したり、他の都市に移転させたりすることができないからです。
人口10万人の街がNFLフランチャイズを維持し続けられる最大の理由が、この市民による所有の仕組みです。チームの未来は、グリーンベイの街と固く結びついています。
黄金時代を築いた伝説の指導者と選手
パッカーズの歴史は、偉大なリーダーたちによって彩られています。特に2つの時代が、チームを「タイトルタウン」へと押し上げました。
ヴィンス・ロンバルディ時代|最強王朝の礎
1959年に就任したヴィンス・ロンバルディは、低迷していたチームを徹底的な規律で変革しました。「神、家族、そしてグリーンベイ・パッカーズ」という彼の哲学は、チームに勝利の文化を植え付けます。
彼の指揮下で、チームは9シーズンで5回のNFLチャンピオンシップを獲得。初代・第2回スーパーボウルをも制覇しました。スーパーボウルの優勝トロフィーに彼の名が冠されていることが、その偉大さを物語っています。
ブレット・ファーヴ革命|「鉄人」がもたらした復活
ロンバルディ時代後の長い低迷期を救ったのが、1992年に加入したクォーターバック、ブレット・ファーヴです。彼は「ガンスリンガー」と呼ばれる情熱的なプレーでファンを魅了しました。
彼の最大の功績は、そのタフさです。NFL記録である297試合連続先発出場を果たし、「鉄人」と呼ばれました。彼の活躍でチームは復活を遂げ、第31回スーパーボウルを制覇しました。
パッカーズを支える文化と現在
パッカーズの強さは、フィールドの中だけにあるのではありません。チームとファンを結ぶ独自の文化と、その伝統を受け継ぐ現在のチームも魅力です。
「チーズヘッド」の誕生秘話|ファン文化の象徴
パッカーズファンの象徴である「チーズヘッド」という黄色いチーズ型の帽子。私がこれを見たとき、とてもユニークだと感じました。
実はこの言葉、元々はライバルチームのファンが、ウィスコンシン州(酪農地帯)を揶揄するために使った侮辱的な言葉でした。しかし、パッカーズファンは逆境を逆手に取り、1987年に一人のファンがこの帽子を作成。侮辱を誇りのシンボルに変えてしまったのです。
2025年シーズンの現在地と展望
伝説的なクォーターバックが続いた後、現在のチームは若き司令塔ジョーダン・ラブ選手に未来を託しています。彼は先発として期待を集めています。
チームは2025年シーズン、第4週終了時点で2勝1敗1分という成績です。多くの負傷者を抱えるなど課題もありますが、バイウィーク明けの次戦に期待がかかります。
表2|2025年シーズン 主な注目選手
| ポジション | 選手名 | 背番号 |
| QB(クォーターバック) | ジョーダン・ラブ | 10 |
| RB(ランニングバック) | ジョシュ・ジェイコブス | 8 |
| WR(ワイドレシーバー) | ロミオ・ドゥーブス | 87 |
| DE(ディフェンシブエンド) | マイカ・パーソンズ | 1 |
| DE(ディフェンシブエンド) | ラシャーン・ゲイリー | 52 |
| S(セーフティ) | ゼイビア・マッキニー | 29 |
まとめ|小さな街の奇跡が続く理由
グリーンベイ・パッカーズは、現代プロスポーツにおける「奇跡」と言えます。人口10万人の小さな街が、巨大資本が支配するNFLで生き残り、さらには支配し続けているからです。
私が考えるその最大の理由は、チームの存在そのものが「市民の誇り」であることです。公有モデルによってチーム移転の脅威から守られているだけでなく、ファンが「自分たちのチーム」として強力にサポートしています。この市民との強固な絆こそが、グリーンベイ・パッカーズの強さの源泉です。

